開業した歯科医院の前で抱負を語る藤本さん

島根県邑南町に移り住んで8年。今月18日、「よい歯の日」に歯科医院を開業した。「がんにならなければ邑南町に来ることはなかった。家族や地域の方々に支えられた」と感謝する。

広島大病院に勤めていた35歳の時、大腸がんが見つかった。告知を受けたのは、妻順子さん(43)の妊娠が分かった直後のことだった。肝臓にも転移し、手術と化学療法を経て1年ほどで職場復帰した。

 

ただ、5年生存率は低く、12年で再発するのを覚悟した。そんな中、所属する医局で公立邑智病院(邑南町)への派遣の話を聞いた。がんが見つかる前は、キャリアアップを目指して診療と研究に没頭し、家族と過ごす時間はほとんどなかった。家族との時間をつくりやすい環境を選び、派遣に手を挙げた。

2015年に邑智病院の歯科に着任。翌年、妻と2人の娘も移住した。野菜をもらったり、草刈りを手伝ってもらったり、住民との距離の近さを実感した。半年ごとに検査を受け、再発の不安を抱えながらの日々。「病院の職員も近所の人もよそ者によくしてくれた。居心地がいい」

 

健康への不安が少なくなるとともに、開業して地域医療の維持に貢献したいという思いが強くなった。町内ではここ数年、民間の歯科診療所4カ所のうち2カ所が閉院。高齢化や後継者不在でさらに減る懸念もあった。過疎、高齢化が進む出身地の呉市倉橋島と重なった。町内の歯科医師も開業を歓迎してくれた。

 

「大変だが、生きている充実感がある」。「第二の故郷」での開業に、患者や住民からは「町に残ってくれてありがとう」と言われる。歯科衛生士らスタッフの確保も住民たちが動いてくれた。薬剤師の資格がある順子さんも受け付けや経理でサポートする。

虫歯や歯周病予防のため、定期的な歯のチェックを呼びかける。今後はホワイトニングなど幅広いニーズにも応えていく。「前向きに日々を積み重ねていきたい。それががん患者の励みになればうれしいですね」(鈴木大介)